依頼者の住宅を内覧し隣のお父さんの住宅を内覧しています。家に入った途端に重い気分になりいました。住宅の中は、ついさっきまで誰か2人がお茶を飲んでいて、ちょっと外出した感じです。空き家になっての10年の時間を感じないのです。雨戸を開け空気の入れ換えをしましたが、住宅内の空気の重さは変わりません。そして、誰かに見られているような気がずーっとしています。
居室は居間と和室だけです。あとは台所や洗面所・浴室とトイレです。小さな小さな平家の家です。
和室の押入には住んでいた人の衣類と布団類が丁寧に納められています。押入の上に目をやると神棚がありました。あの神社を小さくしたものです。何処の家にもある神棚です。
付近の椅子を持ってきて、神棚を確認しました。
神棚の前には住んでいた人がお供えしたご飯がありました。カビが生えたうえ乾燥しきったご飯です。途中で消した蝋燭が2本あります。もちろん水入れはカラカラです。
この神棚だけが10年間の時間を証明しています。
神棚の中にはお札がありました。神社からもらう封筒ほどの大きさのものです。ある高名な神社のものでした。
10年もの間、暗闇の中で誰にも省みられない神聖なお札です。この重い空気はこのせいだったのでしょうか。とても悲しい気分に襲われました。
思わず神棚とお札を清めて、新鮮なお水と蝋燭に灯をともし、これまでの失礼を所有者に代わりお詫びしました。清めたと言っても、車の中にたまたまあった真新しいタオルで抜いただけですが。お供え物は何もありません。
この住宅の内部調査を終え、また雨戸を閉めて外に出ました。新鮮な空気と眩しさを感じました。
「超常現象を信じないあなたが、なぜ神棚を清めたの?」と言われそうです。
神棚に祀ったお札は、人が神仏のご加護があるようにと神社からもらったものです。神社は、このお札が大切にされることを信じて渡したはずです。そして人も大切にする約束で預かったはずなのです。
「大切にする」という約束でもらわれ祀られたお札が、10年年間も放置されたままだったのが悲しかったわけです。まして、多くの人が神聖なものと感じるお札と神棚です。
お身内の誰かが神棚とお札を神社にお返しすれば、よかったのですが。
依頼者の住宅に戻り、戸締まりをして帰ろうと思いました。依頼者の住宅は、窓を全部開けて空気の入れ換えをしていたせいか、心地よい空気に満ちていました。
例によって、この話は次回に続けます。
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